人的資本経営で間違えてはいけないこと

会計

「人的資本経営」という言葉を近年耳にしたことがある人は多いと思います。
上場企業では、2023年3月期決算以降の有価証券報告書から一定の事項について
開示が義務化されています。
この人的資本経営に関する経営指標で、指標の捉え方を間違えると
逆に企業構成員の利益が損なわれるんじゃないか?と思えてしまう
意見があったのでちょっとコメントを。

この人的資本経営、経産省資料によると

「人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、
中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方

と定義されています。
確かに、「人財」とも言われるくらい、人は資本ですよね。
「資」=お金ですから、資本とはお金を含む様々な価値を
生み出すもと、というわけです。

なんですが、10月10日に開催された人的資本コンソーシアム
(会長は伊藤レポートで有名な伊藤邦雄氏)にて、
ある資産運用会社の代表がこういっていたそうです。

「人的資本投資の一丁目一番地は人件費だ。一人当たりの利益など
色々な分析が財務に関連付けてできるようになる」

この部分だけ切り取られていたので前後の文脈はわからないのですが、
この一人当たり利益の向上が人的資本経営の重要な要素だ、という文脈
なのだとしたら、ちょっと取扱いに注意だな、と思いました。

一人当たり利益、算式で示すと

ということですよね。
生産性を図る指標としては確かに一理あって、
従業員一人一人がよりどれだけ価値創造しているか、
ということを示すものです。

ここで、ちょっと見方を変えてみましょう。
「この算式から求められる値が向上するのはどういう状況か?」
という見方です。

数値が向上するには大きく2つ。
①分子が大きくなる
②分母が小さくなる
に分解できます。

①の利益が大きくなれば確かに指標としては好転しますが、
一方で利益が従業員に適切に還元されているかどうかはここからは読み取れません。
従業員に還元されているかどうかは、利益ではなく「人件費」を用いる必要があります。

そしてこれが一番怖いんですが、②の分母を小さくして指標を改善しようとする行為、
つまり指標改善のため従業員数を減らそうとするインセンティブです。
見かけ上はジンテキシホンケイエイができているように見えますが、
実態としては企業が利益を生むだけ生み出しておいて、利益が出たら
はいサヨナラ、と従業員をないがしろにしていることを示唆しているように思えてなりません。
この一人当たり利益がどういう前提で向上しているのか、投資家は
しっかり分析する必要があるでしょう。

個人的に導入したらいいのでは、と思っている指標があります。
言うなれば「人件費還元率」です。
算式としては以下の通り。

この形であれば、従業員に対して企業が生んだ付加価値が
きちんと従業員に還元できているかを直接測れるのではと思うのです。
しかし、これを指標として打ち出している企業は聞いたことがありません。

もちろん、非財務的な要素も加味する必要があります。
しかし企業は数字で語るのも大事です。
財務指標から「この会社はどれだけ人を大事にしているか?」が
しっかり説明できてこそ、本当の人的資本経営ができてると言えるんじゃないでしょうか?

~編集後記~

  • 今日は月の下旬ですが、月次決算支援を提供しているクライアントを往訪。私の業務は年内までという期間限定なので、私の業務をクライアントに引き継ぐための日程です。
  • 夜はそのクライアントとの懇親会を予定。なかなか業務以外でお話しすることがないので、色々とざっくばらんなお話が出来たらいいなぁと思います。
  • 朝のルーティンで愛でられて満足しているうちの猫
たまらんわ~(みっちゃん)

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