企業会計基準審議会(ASBJ)にて、「バーチャルPPAに係る会計上の取扱い」について
当面の会計上の取扱いの検討が9月から予定されているそうです。
そもそもこのバーチャルPPAって何ぞや?と思う方も多いでしょう。
PPAとは「Power Purchase Agreement」の略で、「電力購入契約」とも訳されます。
企業結合会計基準における取得原価の配分でのPPA(Purchase Price Allocation)とは別ものですね。
近年の再生可能エネルギーの普及に伴って考案されました。
需要者(電力を買いたい人)が発電事業者(電力を売りたい人)と契約して、
需要者の建物の屋根や土地の敷地内に太陽光などの発電設備を設置させてもらって
発電した電力を需要者に買ってもらう、という仕組みです。
発電設備を需要者側においてもらうのを「オンサイトPPA」、
発電設備が需要者側とは別の場所に置かれているのが「オフサイトPPA」と呼ばれます。
■オンサイト(on-site)=敷地にある
■オフサイト(off-site)=敷地にない
ということですね。
で、本件のバーチャルPPAは、このオフサイトPPAの1つです。
通常のPPAでは需要家と発電事業者との間で実際に電力のやり取りが生じますが、
バーチャルPPAはあくまでバーチャル。
「仮想の電力購入契約」ということで、電力のやり取りは行わず、環境価値なるものだけを取引するというのがバーチャルPPAになります。
仮想の電力?環境価値?
聞きなれない言葉が並んでよくわからないですよね。
図にするとわかりやすいので、そちらで説明を。
A社(需要者)がB社(発電事業者)がいて、
・A社は太陽光発電による電力を買いたいが近隣に買える業者がいない
・B社は近隣に太陽光発電による電力を売りたいが近隣に売れる需要者がいない
というのが前提です。
このような状態の中で、A社とB社でバーチャルPPA契約を@12円/kwhで締結するんです。
次にA社は、近隣の電力卸売業者であるD社から、太陽光ではない電力を@10円/kwhで購入、
一方B社は、近隣の電力卸売業者であるC社に、太陽光による電力を@8円/kwhで販売したとします。
ここで効力を発するのがバーチャルPPA契約です。
A社はB社との契約単価@12円/kwhと、B社がC社に販売した@8円/kwhとの差額@4円/kwhを
B社に支払い、その対価として環境価値を示す「非化石証書」を受け取ります。
非化石証書とは、再生可能エネルギーをはじめとするCO2を排出しない非化石電源から
発電された電力の「環境価値」部分を証書化したもので、これを有していることで
社外に「環境に貢献してますよ」と主張することができるわけです。
その環境への貢献が、会計上何かしらの資産価値を持つのでは?ということで、
ASBJにおいて議論がなされている、ということなのでしょうね。
上記取引の結果、A社はD社からの電力購入料@10円/kwhに加え、
B社からの非化石証書購入料@4円/kwhが上乗せされた合計@14円/kwhが
コストとはなりますが、「太陽光発電を行っている発電事業者から非化石証書を
取得しており、当社は環境への貢献を行っている」と言うことができます。
とまぁこちらがバーチャルPPAの概要なのですが、会計処理に関する議論は
ASBJの検討を待つとして、そもそも会計以前に疑問なところがあります。
このA社、購入電力により大きなコストがかかっているので、
A社が販売する財やサービスは、その分高原価となり、利益を確保しようと思うと
販売価格が上昇することになりますよね?
その財やサービスを消費するのは、最終的には誰になるのかというと、
もちろん個人の消費者です。
つまりこのバーチャルPPAというスキーム、導入により光熱費が上昇することで
家計をさらに圧迫しかねない仕組みになってはいないでしょうか?
また、ただでさえコストプッシュ型のインフレで、賃上げもまだまだ追いついていない中、
インフレをあえて後押しするような仕組みを構築する理由は不明。
そしてそもそもこの「環境価値」のもととなるCO2も、これがどれだけ
気候変動に影響しているかもよくわかっていないのに、その検証が
抜け落ちた状態でのこのスキームの導入は拙速に思えてなりません。
会計は、起こった事象や取引を数字等を用いて表現する手段ですが、
この実態をそのまま表現して、何かしら非化石証書について資産計上が
なされたあと、「環境価値」そのものが薄氷の上に乗った危ういものだとしたら、
評価減や減損を内包した資産がBSに計上されかねず、個人的には危機感が募ります。
会計以前に、もっと議論すべきことがあるのではないでしょうか。
あるいは、議論を差し置いてでも進めたい何かの事情があるのかもしれないですね…
~編集後記~
- ペン字
- IPO実務検定試験上級の勉強。人事・労務関係を。
- 午後は仕事の打ち合わせ。何かご依頼につながるかもしれません。
- 窓が開いていたので外が気になってしょうがないうちの猫たち
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